事業計画・営業資料に白書の数字を使う — 市場環境の根拠を公的資料で示す

事業計画書や営業資料で市場環境を説明するとき、根拠となる数字の出所は資料の信頼性を左右します。白書は政府が公表する資料で、市場規模、労働市場、物価、業界の動向などを統計とともに整理しているため、根拠資料として使いやすい情報源です。このページでは令和8年版を中心に、白書の数字を資料に使う手順と書き方、注意点をまとめます。

白書の数字が根拠として使える理由と限界

白書の数字が根拠として使いやすい理由は三つあります。第一に、公的統計や省庁の調査に基づいており、出所が明確です。第二に、関係省庁との調整を経て公表される政府の公式な現状認識であり、取引先や金融機関、社内の決裁者と説明の前提を共有しやすい資料です。第三に、政府標準利用規約 (第2.0版) に準拠している白書であれば、出典を明記することで商用の資料にも使えます。

一方で限界もあります。白書の数字は公表時点で入手できた値で、年次は公表年の前年や前々年であることが多く、最新の状況を示しているとは限りません。また白書は分野全体の動向を示す資料で、特定の製品市場や地域の細かな規模はほとんど載っていません。白書の数字は「市場を取り巻く環境」の説明に使い、個別の市場規模は業界団体や調査会社の資料、自社のデータで補うのが現実的です。

用途別に使える白書

伝えたいことごとに、令和7・8年版の白書で根拠に使える記述を整理します。いずれも当サイトの年版ページ「この年版のポイント」に掲載している内容です。

伝えたいこと使える白書と年版該当するポイント
IT・デジタル市場の規模情報通信白書 (令和8年版)2024年の情報通信産業の名目GDPは71.7兆円 (名目GDPの約11.5%)、民間情報化投資は25.7兆円 (前年比1.9%増)
生成AIの導入状況情報通信白書 (令和8年版)何らかの業務で生成AIを利用する企業は86.4%。一方、日本企業では業務変革に「組織的な取組はない」とする回答が約3割弱
人手不足と労働供給中小企業白書 (2026年版)、厚生労働白書 (令和8年版)労働供給制約社会の到来で中小企業の雇用者数は減少が見込まれる。2025年から2040年にかけて生産年齢人口は約1,100万人減る見込み
賃上げと価格転嫁中小企業白書 (2026年版)約30年ぶりの賃上げ水準が続く一方、持続的な賃上げの原資の確保が課題。価格転嫁や成長投資に取り組む企業ほど成果を上げていると分析
物価・エネルギーコスト経済財政白書 (令和8年版)、経済財政白書 (令和7年版)2026年春の中東情勢緊迫化による原油・ナフサ価格の急騰と、輸入物価から企業間取引価格への転嫁を分析 (令和8年版)。2025年は消費者物価が食料品を中心に3%超の上昇 (令和7年版)
医療・介護・福祉の業界動向厚生労働白書 (令和8年版)2024年度の赤字割合は病院58.0%、介護サービス施設・事業所37.5%。ICT・AI・ロボット等の導入に国民の7割以上が肯定的
農業・食品の業界動向食料・農業・農村白書 (令和8年版)2024年の農業総産出額は10.8兆円 (前年比13.6%増)。2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円で過去最高
防衛関連の需要防衛白書 (令和8年版)2026年度防衛関係費は歳出ベースで8兆8,093億円 (前年度比3.9%増)、契約ベースで8兆2,607億円
研究開発・先端技術科学技術・イノベーション白書 (令和8年版)政府60兆円・官民180兆円の研究開発投資目標と、17の重要技術領域の特定
地域の労働市場・人口移動経済財政白書 (令和8年版)、男女共同参画白書 (令和7年版)地方部での労働市場の寡占度と募集賃金の関係を分析 (令和8年版)。若い世代、特に女性は地方から都市へ転出し戻らない傾向が強い (令和7年版)

数字の使いどころ

IT関連のサービスを提案する資料であれば、情報通信白書の情報通信産業の名目GDPや民間情報化投資の額で市場の大きさを示し、企業の生成AI利用率で導入が広がっている状況を示せます。あわせて、日本企業では生成AIによる業務変革に組織的な取組がないとする回答が他国より高いという記述は、導入の次の段階にある課題を説明する材料になります。

採用計画や省力化の投資計画では、中小企業白書の「労働供給制約社会」や、厚生労働白書の生産年齢人口の減少見込みが、人手不足が中長期の前提であることの根拠になります。人件費の上昇を織り込んだ計画では、中小企業白書が示す約30年ぶりの賃上げ水準と、賃上げ原資の確保が課題だという整理が使えます。仕入価格や価格改定の説明では、経済財政白書の原油・ナフサ価格の急騰と価格転嫁の分析が、コスト上昇の背景になります。

業界全体の数字が白書にまとまっている分野もあります。食料・農業・農村白書の農業総産出額や輸出額、厚生労働白書の病院・介護事業所の赤字割合、防衛白書の防衛関係費がその例です。地域を対象にした事業では、経済財政白書の地方部の労働市場の分析や、男女共同参画白書 (令和7年版) の若い世代の人口移動の分析が、採用環境や人口動態を説明する材料になります。

使い方の手順

白書の数字を資料に載せるまでの手順は次のとおりです。

  • 1. 概要資料で数字を特定する: 省庁の概要資料や当サイトの「この年版のポイント」で、使いたい数字と記述を見つける
  • 2. 本文で文脈を確かめる: 本文の該当箇所を読み、数字が何を対象にしたものか (全産業か中小企業か、国内か国際比較か) を確認する
  • 3. 出典注記で原統計を確認する: 図表の出典注記から元の統計・調査を特定し、可能であれば原典で数字と定義を確かめる。白書の公表後に新しい値が出ていないかもあわせて確認する
  • 4. 年次と定義を資料に明記する: 数字の年・年度、ベース (例: 歳出ベース、生産額ベース)、実績か推計・見込みかを出典行や注記に書く
  • 5. 記録を残す: 白書名・年版・ページまたは図表番号・閲覧日を控えておき、翌年の白書が出たときに数字を更新できるようにする

資料への書き方の実例

出典の書き方は、社内の資料ルールがあればそれに従います。ここでは一般的な書式の例を示します。図表番号 (○の部分) は実際の白書で確認して記入してください。

概要資料から数字を取った場合は、「出典: 総務省「令和8年版 情報通信白書」概要」のように概要資料であることを示し、URLと閲覧日を併記すると読み手が確認しやすくなります。白書の図表をそのまま転載・加工するときの条件は「白書の引用ルールと著作権」の記事で解説しています。

  • 本文中の出典行: 「情報通信産業の名目GDPは71.7兆円 (2024年)」の直後または資料の下部に「出典: 総務省『令和8年版 情報通信白書』」
  • 白書の図表をもとにグラフを作った場合の注記: 「出典: 中小企業庁『2026年版 中小企業白書』第○-○-○図をもとに当社作成」
  • 年次と定義を含めた注記: 「注: 防衛関係費は2026年度の歳出ベース (8兆8,093億円)。契約ベースでは8兆2,607億円。出典: 防衛省『令和8年版 防衛白書』」
  • 見込みの数字の注記: 「注: 2025年から2040年にかけての見込み。出典: 厚生労働省『令和8年版 厚生労働白書』」
  • 複数の白書を組み合わせた場合: 出典をそれぞれ書き、どの数字がどの白書のものかが分かるように番号や記号で対応させる

注意点 — 推計値と統計値、改定、定義の変更

白書の数字には、統計調査の実績値のほかに、省庁や他機関の推計値、将来の見込みが含まれます。令和8年版男女共同参画白書が引く2040年の事務職約440万人の余剰は経済産業省の推計に基づく可能性の数字で、厚生労働白書の生産年齢人口の減少も見込みです。資料では「推計」「見込み」と明記し、実績のように書かないようにします。

数字の増減の理由にも注意が必要です。令和8年版食料・農業・農村白書では、2024年の農業総産出額の増加 (前年比13.6%増) と、生産額ベースの食料自給率の上昇 (64%、前年度比3ポイント上昇) の主因として、いずれも米や野菜などの価格上昇が挙げられています。金額の増加を生産量の増加と読み替えないようにします。

  • 改定: 白書の数字は公表時点の値で、元統計が後から改定されることがある。資料を更新するときは原典の最新値を確認する
  • 前年版との指標の違い: 情報通信白書の企業の生成AI活用方針は、令和7年版では「活用する方針を定めている」大企業約56%・中小企業約34%、令和8年版では「積極的または領域限定で活用する方針」を持つ割合が日本で68.9%と、示し方が異なる。年版をまたいで並べるときは指標の定義をそろえる
  • ベースの違い: 食料自給率の供給熱量ベース (2024年度38%) と生産額ベース (同64%)、防衛関係費の歳出ベースと契約ベースのように、同じ名前の指標に複数の定義がある
  • 元統計の切り替わり: 令和8年版食料・農業・農村白書は2025年農林業センサスの結果で担い手の数値を更新している。前年版の値と並べる前に、それぞれの元統計を確認する
  • 白書の記述は政府の認識: 白書は政府の説明文書であり、市場の先行きを保証するものではない。見通しを示すときは、白書の記述であることを明示する

関連ページ

他の解説記事