人手不足と労働市場 — 9 つの白書はどう扱ってきたか

人手不足は、労働市場全体を分析する経済財政白書だけでなく、医療・福祉の担い手を論じる厚生労働白書、省力化と人材確保に取り組む企業を扱う中小企業白書、自衛官の採用難を特集した防衛白書、農業の担い手を追う食料・農業・農村白書にも共通する課題です。分野ごとの不足の現れ方を比べると、労働市場の構造変化が見えてきます。

人手不足は、企業や組織が必要とする働き手を確保できない状態を指し、労働市場は働き手と仕事が出会い、賃金や雇用条件が決まる場を指します。人口減少で働き手の総数が伸びにくくなる中、転職やスポットワークなど働き方が多様化し、AI などの技術が仕事の中身を変えつつあることから、人手の量の不足と、職種や地域による需給のずれの両面が論点になっています。

このテーマが多くの白書にまたがるのは、人手不足が分野ごとに異なる形で現れるためです。経済財政白書はマクロの労働市場として転職市場やミスマッチを分析し、厚生労働白書は医療・介護・福祉の担い手を、中小企業白書は省力化投資や人材確保を、防衛白書は自衛官の採用と処遇を、食料・農業・農村白書は農業の担い手を扱います。男女共同参画白書も女性の雇用や職種間の需給ミスマッチを取り上げています。なお、雇用統計を深く読む場合は、厚生労働省が別に刊行する労働経済白書との併読が有効です。

最初に読むなら、2040年に医療・福祉分野で96万人の担い手不足が見込まれるとした令和4年版厚生労働白書が、不足の規模を具体的に示す入口になります。労働市場全体の構造変化は、人手不足下の転職市場を分析した令和6年版経済財政白書と、ミスマッチやスポットワークを扱った令和7年版で追うことができます。企業の対応策は、労働供給制約社会を前提とした令和8年版中小企業白書が整理しています。

どの白書が扱っているか

特集 章 言及 扱いなし

省庁ごとの切り口

経済財政白書(内閣府)内閣府(経済財政): 労働移動とミスマッチのマクロ分析

経済財政白書は、労働市場の構造を経済全体の視点から分析しています。令和4年版は人口減少下の労働力の確保と質の向上を第2章とし、労働移動やリスキリングを論じました。令和6年版は人手不足下で転職市場が拡大し人材獲得競争が激化する様子や、外国人労働者の賃金を分析し、令和7年版は人手不足感と有効求人倍率のかい離、スポットワークの拡大などのミスマッチを示しています。令和8年版は事務職の業務の AI による代替や、地方部の労働市場の寡占度と募集賃金の関係を取り上げました。

厚生労働白書(厚生労働省)厚生労働省: 医療・介護・福祉の担い手確保

厚生労働白書は、社会保障サービスを支える人材の不足を中長期の推計で示しています。令和2年版は2040年にかけての就業者数の見通しを示して担い手不足・人口減少の克服を課題とし、令和4年版は2040年に医療・福祉分野で96万人が不足するとの推計を示して、10職種・分野の人材確保の取組を分析しました。令和8年版は介護の人手不足の深刻化や専門職養成施設の入学者の減少を踏まえ、テクノロジーの活用と現場主体の業務の再設計を一体で進める必要性を示しています。

中小企業白書(経済産業省)経済産業省(中小企業庁): 省力化投資と人材確保

中小企業白書は、人手不足を企業経営の制約として扱っています。令和4年版は人材不足を原材料価格の高騰と並ぶ供給面の制約に挙げ、令和5年版は物価高騰と深刻な人手不足が続く中での動向を分析しました。令和6年版は就業者数の増加が見込めない中での省力化投資を論じ、令和7年版は人手不足対応のための業績改善を伴わない賃上げに触れています。令和8年版は労働供給制約社会の到来を前提に、AI 活用・デジタル化による労働投入量の最適化と、人材確保・活用の取組を独立した章で分析しました。

防衛白書(防衛省)防衛省: 自衛官の採用難と処遇改善

防衛白書では、人手不足は自衛隊の人的基盤の課題として前面に出てきました。令和7年版は、自衛官の採用難を背景にまとめられた処遇・勤務環境の改善の基本方針を巻頭で特集し、30を超える手当の新設・引上げや営舎内居室の個室化、定年引上げや再就職支援の拡充を記述しています。令和8年版は「プロフェッショナルな自衛隊員」の章を新設し、採用計画約1万5,000人に対して採用は約1万1,000人、充足率は約9割にとどまるとして、給与体系の独自見直しの検討を示しました。

食料・農業・農村白書(農林水産省)農林水産省: 農業の担い手の減少

食料・農業・農村白書は、農業の働き手を基幹的農業従事者の数と年齢構成で追っています。令和4年版は農業構造の変化を特集し、新規就農者の確保・定着と農業従事者一人一人の役割の拡大を課題としました。令和7年版は基幹的農業従事者が2000年の240万人から2024年に111万4千人へ半減し、65歳以上が71.7%を占めると示し、49歳以下の担い手数の維持を新基本計画の目標に掲げています。令和6年版は物流の2024年問題への対応もトピックスで取り上げました。

男女共同参画白書(内閣府)内閣府(男女共同参画): 女性の雇用と職種間のミスマッチ

男女共同参画白書は、労働市場を性別による違いから見ています。令和3年版は接触型産業の打撃により、非正規雇用で働く女性への影響が特に強く表れたことを示し、令和5年版は男性の長時間労働など昭和の慣行が残る働き方と、テレワークの広がりを取り上げました。令和8年版は経済産業省の推計を引き、2040年に事務職で約440万人の余剰、専門職約180万人・現場人材約260万人の不足が生じる可能性を示したうえで、学び直しの男女差を分析しています。

情報通信白書(総務省)総務省: ICT 人材とデジタルによる働き方の変化

情報通信白書は、労働市場をデジタル化の担い手と働き方の変化から捉えています。令和3年版は日本がデジタル化で後れを取った理由の一つに ICT 人材の不足・偏在を挙げ、民間調査を引いて企業のテレワーク実施率が1回目の緊急事態宣言時に17.6%から56.4%へ上昇したことを示しました。令和4年版は生産年齢人口の減少を課題に挙げて ICT による労働生産性の向上を展望し、令和5年版はデータを扱う人材の不足を企業の課題として示しています。

扱いの変遷

  1. 令和2年版厚生労働白書が2040年に向けた就業者数の見通しを示し、担い手不足の克服を課題としました。経済財政白書はテレワークなど働き方改革の進捗を確認し、幅広い産業での IT 人材の雇用を求めています。
  2. 令和3年版感染症の影響が非正規雇用労働者や女性に偏って現れたことを、厚生労働白書と男女共同参画白書が分析しました。経済財政白書は IT 分野などへの労働移動とリカレント教育を課題に挙げています。
  3. 令和4年版厚生労働白書が2040年に医療・福祉分野で96万人の不足を見込む推計を示し、経済財政白書は労働力の確保・質の向上を独立した章としました。中小企業白書は人材不足を供給面の制約に挙げています。
  4. 令和5年版男女共同参画白書が男性の長時間労働など昭和の慣行が残る働き方の見直しとテレワークの効果を論じ、中小企業白書は物価高騰と深刻な人手不足が続く中小企業の動向を分析しました。
  5. 令和6年版経済財政白書が人手不足下の転職市場の拡大と省力化投資、外国人労働者を分析し、労働市場の記述が厚くなりました。中小企業白書も省力化投資による生産性向上の必要性を論じています。
  6. 令和7年版防衛白書が自衛官の処遇・勤務環境の改善を巻頭で特集し、経済財政白書は人手不足感と有効求人倍率のかい離やスポットワークの拡大など、労働市場のミスマッチを分析しました。
  7. 令和8年版厚生労働白書が医療・介護・福祉の人材確保を特集し、中小企業白書は労働供給制約社会を前提に人材確保の章を設けました。経済財政白書は AI による事務職の業務代替を新たな論点としています。

主な数字

項目数値出典
就業者数(2019年、令和2年版厚生労働白書)約6,700万人令和2年版 厚生労働白書
医療・福祉分野の就業者数(2021年、令和4年版厚生労働白書)約8人に1人が医療・福祉分野で就業891万人令和4年版 厚生労働白書
2040年の医療・福祉分野の担い手不足(令和4年版厚生労働白書の推計)必要1,070万人に対し確保見込み974万人96万人令和4年版 厚生労働白書
企業のテレワーク実施率(1回目の緊急事態宣言時、令和3年版情報通信白書)民間調査。宣言前は17.6%56.4%令和3年版 情報通信白書
外国人労働者が雇用者に占める割合(令和6年版経済財政白書)3.4%令和6年版 経済財政白書
基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合(2024年、令和7年版食料・農業・農村白書)71.7%令和7年版 食料・農業・農村白書
自衛官の採用数(2025年度、令和8年版防衛白書)採用計画は約1万5,000人約1万1,000人令和8年版 防衛白書
2040年の事務職の余剰(令和8年版男女共同参画白書が引く経済産業省推計)専門職・現場人材は不足の可能性約440万人令和8年版 男女共同参画白書

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