生成 AI と AI 利活用 — 9 つの白書はどう扱ってきたか
生成AIは、利用実態を追う総務省、研究開発を見る文部科学省、労働市場への影響を分析する内閣府、現場の生産性を論じる厚生労働省など、白書ごとに問いの立て方が異なります。令和6年版以降に特集が相次いだ経緯と各白書が示す数値を並べ、どこから読めばよいかを案内します。
生成AIは、大規模言語モデルなどを用いて文章・画像・音声などを生成するAIの総称です。本ページでは生成AIに限らず、業務やサービスにAIを取り入れる「AI利活用」全般を一つのテーマとし、令和2年版から令和8年版までの9つの白書が、どの年版で、どの角度からこのテーマを取り上げてきたかを横断して整理します。当サイトの白書データでは、AIが特集の中心に据えられるのは令和6年版以降で、それ以前は5Gやデジタル化、研究力といった別のテーマの一部として登場していました。
AIが複数の白書にまたがるのは、技術そのものよりも、その影響が及ぶ範囲が広いためです。総務省の情報通信白書は個人・企業の利用実態と国際比較を、文部科学省の科学技術・イノベーション白書は研究開発と計算資源、研究手法の変化を扱います。内閣府の経済財政白書は事務職の業務代替など労働市場への影響を、厚生労働白書と中小企業白書は人手不足の下で生産性を高める手段としてのAIを、防衛白書は無人アセットと並ぶ新しい戦い方の要素としてのAIを論じています。同じAIでも、所管によって問いの立て方が異なります。
最初に読むなら、AIを単独の特集とした令和8年版情報通信白書が適しています。日本・米国・ドイツ・中国の個人と企業の生成AI利用状況を比較しており、利用の広がりと業務変革の課題を数値で把握できます。研究開発やルール整備の流れを押さえたい場合は、令和6年版の科学技術・イノベーション白書と情報通信白書の特集②を併せて読むと、AIセーフティ・インスティテュートの設立や広島AIプロセス、AI事業者ガイドラインに至る経緯がつながります。労働への影響は、令和8年版の経済財政・厚生労働・中小企業の各白書を並べると比較しやすくなります。
どの白書が扱っているか
特集 章 言及 扱いなし
省庁ごとの切り口
情報通信白書(総務省)総務省: 利用実態と国際比較
情報通信白書は、AIを利用者の側から追い続けている白書です。令和5年版では生成AIをデータを活用する新サービスの一つとして紹介し、令和6年版ではAIセーフティ・インスティテュートや広島AIプロセスなどリスク対応とルール整備を整理しました。令和7年版からは個人の利用経験率を調査で示し、令和8年版では日本・米国・ドイツ・中国の個人と企業を比較する特集を組んでいます。利用の広がりに加え、組織的な取組やスキル習得環境の遅れといった業務変革の課題まで踏み込んでいる点が特徴です。
科学技術・イノベーション白書(文部科学省)文部科学省: 研究開発と計算資源
科学技術・イノベーション白書は、AIを研究開発の対象であると同時に研究の道具として扱います。令和3年版ではスーパーコンピュータや量子技術と並ぶ仮想空間の基盤技術として紹介し、令和6年版で「AIがもたらす科学技術・イノベーションの変革」を第1部の特集に据えました。日本語性能の高い大規模言語モデルの開発、GENIACや富岳などの計算資源、AI for Scienceによる研究手法の変化を整理しています。令和8年版でもAI for Scienceを、世界の競争環境を変える潮流の一つに挙げています。
経済財政白書(内閣府)内閣府: 労働市場と業務代替
経済財政白書は、AIをマクロ経済と労働市場の文脈で取り上げます。令和6年版では、人手不足の下で転職市場が拡大するなか、職種別の求人倍率の差やAIによる業務代替の可能性から、リ・スキリングの重要性を分析しました。令和8年版では労働市場の分析の中で事務職の業務がAIに代替される動きを扱い、前年版からの新たな論点に位置づけています。AIの利用状況そのものより、職種構成や賃金への波及を見る視点です。
厚生労働白書(厚生労働省)厚生労働省: 医療・介護現場の生産性
厚生労働白書は、担い手不足を補う手段としてのテクノロジーという角度からAIを扱います。令和4年版で先端技術の活用による担い手不足の補完に触れ、令和8年版では医療・介護・福祉の現場の人材確保を第1部のテーマとして、ICT・AI・ロボットの活用による生産性向上を論じました。導入に肯定的な国民が7割以上いる一方、テクノロジーは導入するだけでは成果が出ず、現場主体の業務の再設計と一体で進める必要があると結論づけている点が特徴です。
中小企業白書(経済産業省)中小企業庁: 労働投入量の最適化
中小企業白書は、AIを中小企業の労働生産性を高める手段の一つとして位置づけています。令和8年版(2026年版)は、人口減少による労働供給制約社会の到来を前提に、時間当たり労働生産性を「付加価値額の増加」と「労働投入量の最適化」の両面から分析しました。AI活用・デジタル化による労働投入量の最適化を独立した章で扱い、こうした取組を進める企業ほど成果を上げていると整理しています。経営戦略の中での使い方に焦点を当てる点が、他の白書と異なります。
防衛白書(防衛省)防衛省: 新しい戦い方
防衛白書では、AIは安全保障環境の変化を形づくる技術の一つとして登場します。令和8年版は「未来につながる安全保障」をテーマに、無人アセットやAIの活用などを扱う「新しい戦い方をめぐる動向」の章を新設しました。あわせて、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制SHIELDを2027年度中に構築する方針も記述しています。利用者や産業の視点ではなく、各国の軍事動向と防衛力整備の観点からAIを捉えている点が、他の白書との大きな違いです。
扱いの変遷
- 令和2年版情報通信白書は5G、科学技術白書は2040年の未来予測、経済財政白書はデジタル化の遅れを特集の軸としており、当サイトの白書データにAIを主題とした記述は見当たりません。
- 令和3年版科学技術・イノベーション白書がSociety 5.0の特集で、スーパーコンピュータや量子技術と並ぶ仮想空間の基盤技術としてAIを紹介しました。経済財政白書はICT人材の配置の偏りなどデジタル化の遅れを分析しています。
- 令和4年版各白書の特集は研究力、ICTの半世紀、人への投資などで、AIを主題とする年版はありません。経済財政白書のリスキリング、厚生労働白書の先端技術による担い手不足の補完など、のちの論点につながる記述が現れています。
- 令和5年版対話型生成AIの急速な普及を受け、情報通信白書がメタバースなどと並ぶ新サービスとして生成AIを取り上げ、世界市場の民間予測や、生成AIで作られた偽画像・動画の拡散のおそれを整理しました。
- 令和6年版科学技術・イノベーション白書がAIを第1部の特集とし、情報通信白書も特集②でデジタルテクノロジーとの共生を扱いました。AIセーフティ・インスティテュートや広島AIプロセスなど、リスク対応とルール整備が論点の中心です。
- 令和7年版情報通信白書が個人の生成AI利用経験を2023年度調査の9.1%から2024年度の26.7%へと示し、関心が技術の紹介から利用実態の把握へ移りました。企業の活用方針の規模間の差も示されています。
- 令和8年版情報通信白書がAIを単独の特集とし、防衛白書は「新しい戦い方」の章を新設しました。経済財政・厚生労働・中小企業の各白書も業務代替や生産性向上の手段としてAIを扱い、AIを論じる白書が最も多い年版です。
主な数字
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 個人の生成AI利用経験率 (令和8年版情報通信白書、2025年度調査)米国・ドイツ・中国より依然低い | 58.8% | 令和8年版 情報通信白書 |
| 個人の生成AI利用経験率 (令和7年版情報通信白書、2024年度調査)2023年度調査は9.1% | 26.7% | 令和7年版 情報通信白書 |
| 15〜19歳の生成AI利用経験率 (令和8年版情報通信白書)日本では年齢別で最も高い | 91.7% | 令和8年版 情報通信白書 |
| 何らかの業務で生成AIを利用する企業の割合 (令和8年版情報通信白書) | 86.4% | 令和8年版 情報通信白書 |
| 生成AIを積極的または領域限定で活用する方針の企業の割合 (令和8年版情報通信白書、日本)2024年度調査は49.7% | 68.9% | 令和8年版 情報通信白書 |
| 生成AIを活用する方針を定めている大企業の割合 (令和7年版情報通信白書)中小企業は約34% | 約56% | 令和7年版 情報通信白書 |
| 生成AIの世界市場の民間予測 (令和5年版情報通信白書、2030年まで)2022〜2030年の年平均成長率35.6% | 約14兆円 | 令和5年版 情報通信白書 |
| ICT・AI・ロボット等の導入に肯定的な国民 (令和8年版厚生労働白書)医療・介護・福祉分野への導入について | 7割以上 | 令和8年版 厚生労働白書 |
関連ページ
白書の年版ページ
- 令和8年版 情報通信白書
- 令和6年版 情報通信白書
- 令和6年版 科学技術・イノベーション白書
- 令和7年版 情報通信白書
- 令和5年版 情報通信白書
- 令和8年版 経済財政白書
- 令和8年版 厚生労働白書
- 令和8年版 中小企業白書
- 令和8年版 防衛白書
- 令和6年版 経済財政白書