サイバーセキュリティ — 9 つの白書はどう扱ってきたか
サイバーセキュリティは、通信基盤の信頼性として見る総務省、新たな領域として見る防衛省、犯罪として見る法務省、施策と研究の対象として見る文部科学省で、問いの立て方が大きく異なります。各白書の記述を並べ、どの年版で何が論点になったかを確認します。
サイバーセキュリティは、情報システムや通信ネットワーク、そこで扱うデータを、不正なアクセスや攻撃、情報の流出から守るための取組の総称です。本ページでは、令和2年版から令和8年版までの9つの白書が、どの年版でどのようにこのテーマを記述してきたかを横断して整理します。あらかじめお断りすると、当サイトの白書データでサイバーセキュリティを特集の主題とした年版はありません。5Gや新たな領域、デジタル基盤の課題といった、より大きなテーマの一部として登場するのが通例です。
このテーマが複数の白書にまたがるのは、同じサイバー空間の問題が、所管によって通信の信頼性、国の防衛、犯罪の取締り、研究開発と施策の対象という異なる顔を持つためです。情報通信白書は5G時代のIoT機器のリスクや社会基盤となったデジタルの課題として、防衛白書は宇宙・電磁波と並ぶ新たな領域として、犯罪白書はコロナ禍でも増加が続いた犯罪類型として扱います。科学技術・イノベーション白書は施策分野の一つとして、また研究セキュリティの文脈で触れています。このテーマにはサイバーセキュリティ戦略本部の年次報告など白書以外の報告書もあるため、詳しい動向はそちらと併せて確認するのが確実です。
最初に読むなら、令和2年版情報通信白書の「5G時代のサイバーセキュリティ」と、令和7年版情報通信白書の課題の章が入口になります。前者はIoT機器の普及に伴うリスクと利用者の意識醸成を、後者は信頼性あるデジタル基盤の確保や偽・誤情報対策と並べてサイバーセキュリティを取り上げています。安全保障の観点では、宇宙・サイバー・電磁波の新たな領域を独立した章で扱った令和4年版防衛白書を併せて読むと、同じ空間を守る側の論理の違いが見えてきます。情報通信白書の2つの年版を比べると、5Gという通信基盤から、社会基盤となったデジタル全体へと視野が広がったことも分かります。
どの白書が扱っているか
特集 章 言及 扱いなし
省庁ごとの切り口
情報通信白書(総務省)総務省: 通信基盤とデジタル社会の信頼性
情報通信白書は、サイバーセキュリティを通信基盤とデジタル社会の信頼性の問題として扱っています。令和2年版は5Gの特集の中で「5G時代のサイバーセキュリティ」を一節として取り上げ、IoT機器の普及に伴うリスクは見落とされがちだとして利用者の意識醸成の重要性に触れました。日本企業の危機意識は比較的高いとも分析しています。令和5年版も、意図しない情報流出への消費者の懸念を示しました。令和7年版は、社会基盤となったデジタルの課題として、偽・誤情報対策などと並べてサイバーセキュリティを挙げています。
防衛白書(防衛省)防衛省: 宇宙・電磁波と並ぶ新たな領域
防衛白書は、サイバー空間を宇宙・電磁波と並ぶ「新たな領域」として位置づけています。令和2年版は安全保障環境の特徴の一つに新たな領域の重要性の増大を挙げ、令和2年度の防衛力整備で宇宙・サイバー・電磁波の能力の獲得・強化を進める方針を示しました。令和3年版も新たな領域の重要性に触れています。令和4年版では「宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域をめぐる動向」を第I部の独立した章としています。利用者の保護ではなく、国家間の対立と防衛力整備の観点から見ている点が他の白書と異なります。
犯罪白書(法務省)法務省: 犯罪動向の中のサイバー犯罪
犯罪白書は、刑事司法の統計を通してサイバー空間の問題に触れています。令和4年版の特集「新型コロナウイルス感染症と刑事政策」は、窃盗の大幅な減少で刑法犯全体の認知件数が減るなかでも、サイバー犯罪や児童虐待は増加傾向が続いていることを整理しました。特集の主題ではなく、コロナ禍の影響を検証する中で示された論点です。同じ特集では、持続化給付金の詐取など経済対策の制度を悪用した犯罪の検挙件数も示しています。当サイトの白書データにはサイバー犯罪の件数が無いため、数値は原典の統計で確認する必要があります。
科学技術・イノベーション白書(文部科学省)文部科学省: 施策分野と研究セキュリティ
科学技術・イノベーション白書では、サイバーセキュリティは科学技術政策の施策分野の一つとして登場します。令和2年版の第2部は、前年度に講じた施策を「サイバーセキュリティの確保」などのテーマ別に紹介し、特集の未来予測にも「システムの不正侵入を防止する技術」が含まれています。基本法30年を振り返った令和7年版は、第7期基本計画の検討で深めるべき論点として、経済安全保障や国際頭脳循環への参画と並んで研究セキュリティへの配慮を挙げ、研究の側から安全を考える視点を加えています。
扱いの変遷
- 令和2年版情報通信白書が5Gの特集で「5G時代のサイバーセキュリティ」を一節として扱い、防衛白書は新たな領域の能力強化方針を示しました。科学技術白書も第2部で「サイバーセキュリティの確保」を取り上げ、三つの白書が同時に扱った年版です。
- 令和3年版防衛白書が新たな領域の重要性に引き続き触れました。情報通信白書はテレワークの急拡大などコロナ禍で加速したデジタル化を記録していますが、当サイトの白書データにセキュリティを論じた記述は見当たりません。
- 令和4年版防衛白書が「宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域をめぐる動向」を独立した章とし、犯罪白書はコロナ禍でもサイバー犯罪の増加傾向が続いていることを示しました。情報通信白書の公表時には経済安全保障への関心が高まっていました。
- 令和5年版情報通信白書が「強靱・健全なデータ流通社会」を特集し、各国の消費者で意図しない情報流出や望まない利用への懸念が最も多いことを示しました。防衛白書は三文書の説明が中心で、白書データにサイバーの記述は見当たりません。
- 令和6年版情報通信白書は能登半島地震を受けた通信インフラの強靱化と、偽・誤情報や生成AIのリスク対応を論点としました。災害と情報の信頼性が中心で、サイバー攻撃そのものを扱う記述は当サイトの白書データに見当たりません。
- 令和7年版情報通信白書が、社会基盤となったデジタルの課題として、信頼性あるデジタル基盤の確保や偽・誤情報対策と並べてサイバーセキュリティを挙げました。科学技術白書は研究セキュリティへの配慮を第7期計画に向けた論点としています。
- 令和8年版防衛白書が無人アセットやAIの活用を扱う「新しい戦い方をめぐる動向」の章を新設し、情報通信白書はAIの進展を特集しました。いずれも白書データ上はサイバー領域を名指しした記述がなく、扱いは原典で確認が必要です。
関連ページ
白書の年版ページ
- 令和2年版 情報通信白書
- 令和7年版 情報通信白書
- 令和4年版 防衛白書
- 令和2年版 科学技術・イノベーション白書
- 令和5年版 情報通信白書
- 令和2年版 防衛白書
- 令和3年版 防衛白書
- 令和4年版 犯罪白書
- 令和7年版 科学技術・イノベーション白書