経済安全保障とサプライチェーン — 9 つの白書はどう扱ってきたか
経済安全保障とサプライチェーンは、感染症による供給網の分断、ウクライナ侵略後の調達難、米国の関税措置、中東情勢と、年版ごとに異なるリスクを起点に各白書に現れてきました。マクロ経済、企業、防衛、研究開発、デジタル、農業の6つの角度から、どの年版で何が論点になったかを整理します。
経済安全保障は、国家と国民の安全を経済面から確保するための取組を指し、重要な物資の安定供給、基幹インフラの安全性、先端技術の育成と流出防止などを含みます。経済安全保障推進法の成立で政策の枠組みが整い、サプライチェーン(原材料の調達から製品の販売までの供給網)の強靱化はその中心的な課題とされています。このページでは両者を一つのテーマとして、各白書が供給の途絶や対外依存のリスクをどう扱ってきたかを読み比べます。
このテーマが複数の白書にまたがるのは、リスクの起点と影響を受ける主体が年版ごとに異なるためです。令和3年版では感染症による供給網の分断、令和4年版ではウクライナ侵略後の原材料価格の高騰と部材調達難、令和7年版では米国の関税措置、令和8年版では中東情勢による原油・ナフサの供給が論点になりました。影響を受ける側も、マクロ経済、中小企業、防衛装備、研究開発、デジタル基盤、農業と幅広く広がっています。なお、本サイトが要約した62の年版のポイントで「経済安全保障」という語を明記しているのは令和7年版科学技術・イノベーション白書で、多くの白書は供給量の確保や海外事業者への依存といった具体的な論点の形で扱っています。
最初に読むなら、企業の現場で起きた調達難を節として扱った令和4年版中小企業白書です。続いて、防衛生産・技術基盤の部を新設した令和8年版防衛白書と、安全保障と一体化した政策を世界の潮流の一つに挙げた令和8年版科学技術・イノベーション白書を読むと、国の側の対応が分かります。供給の途絶が物価と実質賃金に及ぼす影響は、令和8年版経済財政白書が分析しています。
どの白書が扱っているか
特集 章 言及 扱いなし
省庁ごとの切り口
経済財政白書(内閣府)内閣府: 供給ショックと対外リスクをマクロで捉える
経済財政白書は、供給網のリスクを景気と物価の先行きを左右する要因として扱います。令和3年版は感染症を経たサプライチェーンの強靱化を課題に挙げました。令和7年版は米国の関税措置を先行きのリスクとして分析し、財の貿易収支の均衡化やデジタル関連サービス収支の赤字拡大を踏まえて、企業資金を国内投資へ向ける環境整備の重要性を指摘しています。令和8年版は原油・ナフサ価格の急騰を受け、備蓄活用と代替調達による供給量の確保状況を分析しました。
中小企業白書(経済産業省)中小企業庁: 部材調達難と事業継続
中小企業白書は、供給網の混乱を個々の企業の経営課題として扱います。令和4年版は第1部で原油・原材料価格の高騰、部材調達難、人材不足といった供給面の制約が中小企業に与える影響を取り上げ、BCP(事業継続計画)にも節を設けました。令和7年版は、円安・物価高と金利上昇が輸入比率や借入金依存度の高い中小企業の利益を下押しするリスクを指摘しています。国全体の調達戦略よりも、個々の企業が受ける影響と対応に焦点を当てている点が他の白書との違いです。
防衛白書(防衛省)防衛省: 防衛生産・技術基盤と装備移転
防衛白書は、経済安全保障を防衛装備品の生産と技術の基盤という角度から扱います。令和6年版は2023年12月の防衛装備移転三原則・運用指針の一部改正と、フィリピンへの警戒管制レーダー納入という完成装備品移転の初案件を記述しました。令和7年版はGCAP政府間機関の設立や防衛イノベーション科学技術研究所の創設に言及しています。令和8年版は防衛生産・技術基盤を扱う第IV部を新設し、2026年4月の三原則改正や豪州との護衛艦の共同開発・生産を記述しています。
科学技術・イノベーション白書(文部科学省)文部科学省: 研究セキュリティと重要技術領域
科学技術・イノベーション白書は、経済安全保障を先端技術をめぐる国際競争の問題として扱います。令和7年版は第7期基本計画の検討で深めるべき論点として、最先端技術の兆候を早期に捉えるインテリジェンス機能、経済安全保障、国際頭脳循環への参画と研究セキュリティへの配慮を挙げました。令和8年版は世界の競争環境を変える潮流の一つに安全保障と一体化した政策を挙げ、17の重要技術領域の特定など技術領域の戦略的重点化を整理しています。
情報通信白書(総務省)総務省: デジタル分野の海外依存と基盤の信頼性
情報通信白書は、デジタル分野での対外依存と基盤の信頼性を扱います。令和3年版はコロナ禍で加速したデジタル化の文脈でサプライチェーンの分断を整理し、令和4年版は刊行50年の特集でICTを取り巻く国際情勢の変化を振り返りました。令和7年版は「社会基盤」となったデジタルの特集で、デジタル分野での海外事業者の台頭と日本の状況を概観し、信頼性あるデジタル基盤の確保を課題に挙げています。
食料・農業・農村白書(農林水産省)農林水産省: 食料供給を支える調達と物流
食料・農業・農村白書は、食料の供給網を生産資材、原料、物流の面から扱います。令和3年版は消費者の買いだめで一時的な欠品が生じた事例から感染症も食料供給のリスクになると指摘し、植物新品種の海外流出対策も取り上げました。令和4年版は加工食品の原料を国産に切り替える動きを、令和5年版は飼料・肥料など生産資材の価格上昇の影響を、令和6年版は物流の2024年問題を扱っています。食料安全保障そのものの扱いは、別のテーマページで整理しています。
扱いの変遷
- 令和2年版本サイトの要約では、サプライチェーンや経済安全保障を主題とする年版は確認できません。通商の論点としては、食料・農業・農村白書が日米貿易協定の合意内容と国内対策をトピックスで整理しています。
- 令和3年版感染症による供給網の混乱を受け、情報通信白書がサプライチェーンの分断を、経済財政白書がサプライチェーンの強靱化を取り上げました。食料・農業・農村白書は買いだめによる欠品と植物新品種の海外流出対策を扱っています。
- 令和4年版ウクライナ侵略と原材料価格の高騰を背景に、中小企業白書が部材調達難とBCPを節で扱いました。食料・農業・農村白書は加工食品の原料を国産に切り替える動きを、情報通信白書はICTを取り巻く国際情勢の変化を取り上げています。
- 令和5年版食料・農業・農村白書が飼料・肥料など生産資材の価格上昇の影響を特集で整理しました。中小企業白書は価格転嫁に加えて国内投資の拡大などを含む「3つの好循環」の実現を重要としています。
- 令和6年版防衛白書が防衛装備移転三原則・運用指針の一部改正と完成装備品移転の初案件を記述し、食料・農業・農村白書は物流の2024年問題への対応をトピックスに加えました。
- 令和7年版米国の関税措置が相次ぐ中、経済財政白書が関税措置を先行きのリスクとし、情報通信白書が海外事業者の台頭を、科学技術・イノベーション白書が経済安全保障と研究セキュリティを論点として明記しました。
- 令和8年版経済財政白書が中東情勢下での原油・ナフサの供給量の確保を分析し、防衛白書が防衛生産・技術基盤の部を新設しました。科学技術・イノベーション白書は安全保障と一体化した政策を世界の潮流の一つに挙げています。
主な数字
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 防衛装備移転三原則・運用指針の一部改正 (令和6年版防衛白書)フィリピンへの警戒管制レーダー納入が完成装備品移転の初案件 | 2023年12月 | 令和6年版 防衛白書 |
| 防衛装備移転三原則と運用指針の改正 (令和8年版防衛白書)いわゆる「5類型」の撤廃を含む | 2026年4月 | 令和8年版 防衛白書 |
| 豪州の次期汎用フリゲートとして共同開発・生産する隻数 (令和8年版防衛白書)もがみ型護衛艦の能力向上型が選定された | 計11隻 | 令和8年版 防衛白書 |
| 第7期基本計画で特定した重要技術領域の数 (令和8年版科学技術・イノベーション白書) | 17 | 令和8年版 科学技術・イノベーション白書 |
| 研究開発投資目標 (令和8年版科学技術・イノベーション白書) | 政府60兆円・官民180兆円 | 令和8年版 科学技術・イノベーション白書 |
関連ページ
白書の年版ページ
- 令和8年版 防衛白書
- 令和8年版 科学技術・イノベーション白書
- 令和8年版 経済財政白書
- 令和7年版 情報通信白書
- 令和4年版 中小企業白書
- 令和7年版 科学技術・イノベーション白書
- 令和6年版 防衛白書
- 令和7年版 防衛白書
- 令和7年版 経済財政白書
- 令和3年版 経済財政白書
- 令和3年版 情報通信白書
- 令和3年版 食料・農業・農村白書