食料安全保障 — 9 つの白書はどう扱ってきたか

食料安全保障は、令和5年版以降の食料・農業・農村白書で毎年形を変えて特集に取り上げられてきたテーマです。資材価格の高騰、基本法の検証と改正、新たな基本計画、米価格の高騰と、特集の切り口は年ごとに変わりました。各年版の特集と主要な数字を並べ、議論の移り変わりをたどります。

食料安全保障は、国民が将来にわたって良質な食料を合理的な価格で入手できる状態を確保することを指します。2024年に改正された食料・農業・農村基本法は、これを基本理念の柱に位置づけました。背景には、世界人口の増加と気候変動による食料生産の不安定化や、生産資材の価格高騰といったリスクの高まりがあります。輸入に頼る食料や生産資材の調達リスクへの備え、国内の生産基盤の維持、生産コストを反映した価格形成、平時からの備蓄までが論点に含まれ、農業の問題にとどまらず家計や物流にも関わるテーマです。

本サイトの9シリーズのうち、このテーマを正面から扱うのは食料・農業・農村白書です。同白書は食料・農業・農村基本法に基づいて毎年国会に報告される法定白書で、食料自給率や担い手の動向を継続して記録しています。ほかの白書では令和7年版経済財政白書が食料品を中心とした物価上昇を分析している程度で、防衛白書や中小企業白書などの要約には食料安全保障を扱う記述が見当たりません。比較表で「扱いなし」としたのは、特集や構成から食料を扱わないと判断できる情報通信白書・男女共同参画白書・犯罪白書で、ほかの空欄は要約からは判断できないことを示します。白書をまたいで比べるというより、一つの白書の特集が7年間でどう移り変わったかを読むページになっています。生産資材の調達や物流といった供給網の論点は、経済安全保障とサプライチェーンのページとあわせて読むと全体像がつかみやすくなります。

最初に読むなら、改正前の基本法を検証し、気候変動による食料生産の不安定化や生産コストが価格に反映されにくい問題など今後20年の課題を整理した令和6年版です。続いて、改正基本法を具体化する新たな基本計画の目標を示した令和7年版、米価格の高騰への対応を検証した令和8年版と読み進めると、制度の見直しから実行と検証への流れが分かります。担い手の動向まで含めて読むなら、2025年農林業センサスの結果を反映した令和8年版の数値が最新です。白書の正式名称は公表前年度の年度で表記されるため、本サイトの令和8年版は「令和7年度 食料・農業・農村白書」にあたります。食料自給率を引用する際は、供給熱量ベースと生産額ベースのどちらかを明記してください。

どの白書が扱っているか

特集 章 言及 扱いなし

省庁ごとの切り口

食料・農業・農村白書(農林水産省)農林水産省: 供給の安定と国内の生産基盤

食料・農業・農村白書は、食料安全保障を供給の安定と国内の生産基盤の両面から扱います。令和5年版は特集「食料安全保障の強化に向けて」で資材価格と食料品価格の上昇を生産者と消費者の双方から整理し、令和6年版は顕在化した食料安全保障リスクを踏まえて基本法の検証・見直しを特集しました。令和7年版は改正基本法を具体化する新たな基本計画で食料自給率の引上げなどの目標とKPIによる検証を示し、令和8年版は米価格の高騰への政府の対応を検証しています。令和2〜4年版も第1章「食料」で食料自給率を報告しています。

経済財政白書(内閣府)内閣府: 家計から見た食料品の価格

経済財政白書は、食料をマクロ経済の物価と家計消費の問題として扱います。令和7年版は、消費者物価が食料品を中心に3%超の上昇を続ける中で、賃金と物価がともに上昇するノルムの定着に向けた動きを検証し、個人消費が所得対比で緩やかな回復にとどまる背景に物価上昇への懸念や将来への備えがあると整理しました。本サイトの要約からは食料の供給体制や自給率を扱う記述は確認できず、家計が価格を通じて受ける影響を見る角度に限られます。ほかの年版の物価分析は、輸入物価や原油などのエネルギー価格の動きが中心です。

扱いの変遷

  1. 令和2年版2020年3月策定の新たな食料・農業・農村基本計画を特集1で取り上げ、10年程度先までの施策の方針を定める計画として歴代計画の目標と施策を整理しました。日米貿易協定の合意内容と対策、新型コロナへの対応にも項目を設けています。
  2. 令和3年版新型コロナの影響と対応を特集し、消費者の買いだめでパスタや冷凍食品の欠品が一時発生した事例から、感染症も食料供給のリスクになると指摘しました。外食への支出が大きく減る一方で生鮮食品への支出が増えたことも分析しています。
  3. 令和4年版ウクライナ侵略で穀物や肥料、燃料の価格が上昇した時期の公表です。2020年農林業センサスを踏まえて農業構造の変化を特集し、背景に食料自給率の向上や食料安全保障の強化への期待を挙げ、加工食品の国産原料への切替えも紹介しました。
  4. 令和5年版世界的な食料情勢の変化を背景に特集「食料安全保障の強化に向けて」を組み、飼料・肥料などの生産資材と食料品の価格上昇の影響を生産者と消費者の双方から整理し、2022年12月決定の食料安全保障強化政策大綱にも触れました。
  5. 令和6年版食料安全保障リスクの顕在化を踏まえて基本法の検証・見直しを特集し、気候変動による食料生産の不安定化、価格形成の問題、国内市場の縮小を今後20年の課題に挙げました。自給率は供給熱量ベース38%、生産額ベース58%です。
  6. 令和7年版改正基本法を具体化する新たな基本計画の策定を特集し、食料自給率の引上げ、農地面積412万haの確保、49歳以下の担い手数の維持などの目標と、KPIによる年1回以上の検証を示しました。経済財政白書は食料品を中心とする物価上昇を分析しています。
  7. 令和8年版特集「米の安定供給に向けた対応」で、2025年5月に小売価格が前年同月の約2倍となった米価格の高騰を検証し、需給見通しと実績の乖離や政府備蓄米の放出の遅れを課題に整理しました。自給率は供給熱量ベース38%、生産額ベース64%です。

主な数字

項目数値出典
食料自給率 (供給熱量ベース、2024年度、令和8年版)前年度並み38%令和8年版 食料・農業・農村白書
食料自給率 (生産額ベース、2024年度、令和8年版)米・野菜・畜産物の国内価格上昇を主因に前年度比3ポイント上昇64%令和8年版 食料・農業・農村白書
食料自給率 (生産額ベース、2022年度、令和6年版)前年度比5ポイント低下58%令和6年版 食料・農業・農村白書
新たな基本計画で確保をめざす農地面積 (令和7年版)412万ha令和7年版 食料・農業・農村白書
2024年産米の相対取引価格 (玄米60kg当たり、令和7年版)前年産比59.2%上昇2万4,383円令和7年版 食料・農業・農村白書
米の小売価格 (2025年5月、令和8年版)前年同月の約2倍令和8年版 食料・農業・農村白書
基幹的農業従事者数 (2025年、令和8年版)平均年齢67.7歳。2000年の240万人の半数未満103万6千人令和8年版 食料・農業・農村白書

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